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髯劇 [ここ掘れ、トシハル]

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ある夕暮れの事です。
トシハルという1人の若者が佇んでおりました。
足早に行き交う人の流れを見ながら時々溜息をついてます。
そこに1人の老人がやって来ました。
長く蓄えた白い髯を揺らしながらトシハルに近づいてきます。
そしてトシハルの横に並ぶとそのままじっとしているのでした。

トシハルは一銭の金も無く今日の食事さえ事欠いており途方に暮れていたのですが、
老人の長い髯を見ている内に、思いっきり引っ張ったらさぞ愉快だろうと考えだしました。
すると老人に髯が気になって気になって仕方ありません、
そこでトシハルは意を決して頼む事にしました。

「ぶしつけですが貴方の髯を引っ張りたいのです」

トシハルはさぞや老人が怒るだろうと考えていたのですが老人は眉1つ動かさずに承諾しました。
そうすんなりいくと逆に躊躇するトシハルでしたが老人の髯を掴んで思いっきり引っ張りました。

老人は「ぎゃひぃぃぃ」と叫んで暴れますがトシハルは構わず引っ張り続けます。
「うぎゃーーーうぎゃーーー」
老人は慌てふためき逃げようとしますがトシハルは髯を掴んで離しませんでした。
「なにをするんじゃー!なにをするんじゃー!」

実は先ほどのやり取りは全てトシハルの妄想でした。
老人の罵声でトシハルもそれはなんとなく理解し始めたのですが、
今更止めた所で奇行の事実が無くなるわけでも無いので引っ張り続けていたのでした。

やっとの思いでトシハルを振り払った老人は貴様は地獄行きじゃーと罵って逃げて行きました。
トシハルは老人の髯の感触を思い出しながら特に楽しくも無かったなとつぶやくのでしたが、
しかしその後も長い髯を見ると引っ張りたくなるのでした。



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