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二人いる! [狩人のものがたり]

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その日の午後、交番に勤務していた高峰巡査は奇妙な光景を目の当たりにする。
ことの始まりはある男を見たことだった。

真夏に黒い長袖のシャツを着た男が交番の前の広場に立っていた。
炎天下に身じろぎもせず空虚を見詰めたままただひたすら立ち続けている。
その一種異様な菜雰囲気に周囲の人間は近寄ろうとせず遠巻きに見ている、
特に何をするわけでもなくまた交番の前でもあったので高峰も同様にしていた。
その時だ電話が鳴ったのは、相手は近くのマンションの住人からで、
「3階の部屋から誰かが争っている音がする」というものだった。
高峰はその黒シャツの男が気になっていたので同僚に監視を頼むと問題のマンションに向った。

ものの5分で到着すると電話の主が待っていた。
「さっきまで激しい物音があったんだけど・・・」
高峰が到着する直前に物音が止んだらしい、取り合えず男の案内で3階に行く。

「どの部屋ですか?」
「あの奥の部屋だと思うんだけど・・・」

高峰がその部屋に近寄ろうとした瞬間、扉が開き中から人が出て来た。
高峰は激しく動揺した、出て来た人間は先程交番の前にいた男にそっくりだったからだ。

男は高峰の警官の制服を見るやそのまま逃走した。

「待てーっ」
高峰は男を追った、追いながら無線で同僚を呼び出した。
「あの男はどうしているっ」
同僚の話では黒シャツの男はあれからもずっと広場に立ち尽くしたままだという、
高峰は職務質問を理由に交番で確保するよう命令した。

一方逃げている黒シャツの男は余り運動は得意でないみたいだった、
階段を下りる足音が近くなっており曲がり角では黒シャツの背中が見えている、
1階のところで黒シャツの男はバランスを崩して転んでしまった。

確かに目の前に黒シャツの男はいた、だが転んだと同時に突然視界から消え去ってしまった。

忽然と男は消えた、高峰の目の前で。
足音も消えマンションはまた静寂を取り戻している。
無線で同僚から男を確保したとの連絡が入る、
何か理由をつけ自分が戻るまで引き止めるよう頼んだ。
そして高峰は男が出て来た部屋に戻った。

その部屋には若い男の死体が1つあった。
凶器は死体のそばに落ちていた金属製のバット、
後頭部を一撃、周囲には血が飛び散っていた。
凶器から出た指紋はこの部屋の住人のもので通報者の証言では、
高峰が見た黒シャツの男がその住人だった。

マンションの監視カメラの映像によれば住人が騒ぎを聞きつける数分前、
若い男がその部屋に訪問している、
それから高峰が駆けつけるまで間出入りした者は無い。
映像は黒シャツの男が逃げ出した所も鮮明に捉えてた。

問題はその部屋の住人が事件発生前から交番の前にいたということだ。

一応死んだ男について尋ねたが知らないと答えたきり黙ってしまう。
「帰っていいですか?」
「ええ、ただ貴方の部屋から死体が出てきましたので調査の為部屋は出入り出来ません」
「分かりました暫くホテルに身を寄せます、勿論居場所は知らせた方がいいですよね?」
そう言うと黒シャツの男は立ち上がった。
その際何気に膝の辺りの砂埃をはらっているのを高峰は見た。
思い返せば追っていた黒シャツの男は消える前に転んでいる・・・

もしこの男が高峰が追っていた黒シャツであるなら、
交番の前には居なかった事になり目の前の男は存在しない事になる。
交番の前にいた男の存在を認めるなら高峰の追った男とは関係がなくなってしまう。
もしこの男が高峰が追った男であるためには、
全く別の場所に同じ人物が同時に居た事を立証しなくてはならない・・・

立ち去る黒シャツの男に高峰は声をかけた。
「何度か連絡する事になると思います、岩代さん」
岩代は無言で頷き去って行った。
その後で高峰は床に落ちている砂埃を丁寧に拾った。
それがマンション前の砂と一致しても黒シャツの男、岩代を追い詰める事は出来ないだろう。
ただ何かを納得しておきたいと高峰は思ったのだ。



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